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高橋洋一の民主党ウォッチ 日銀に軽んじられた菅財務相 でもインフレ目標悪くない(J-CASTニュース)

 2010年2月16日(火)、衆議院予算委員会で興味深いやり取りがあった。山本幸三議員(自民党)からの質問に答える形で、菅直人副総理・財務相は「1%が十分かどうかは別として、その程度を政策的な目標にすべきだ」と述べた。さっそく、「政府・日銀が、デフレ脱却に向け1%程度の物価上昇率を目標とすることで一致した」と報じた新聞もあるが、これは完全な早合点だ。

 翌17、18日と日銀金融政策決定会合が開かれ、会合後の記者会見で、白川方明日銀総裁は、「金融政策の手法として意味のある論点ではない」と述べ、インフレ目標の採用国と非採用国のよいところを採っており現状の枠組みは最適との考えを示し、インフレ目標の導入を否定した。菅副総理も軽んじられたものだが、一体どうしてこんなによじれるのだろう。

■現状よりマシになるなら導入価値あり

 私がインフレ目標について勉強したのは、12年前に米国プリンストン大学に行ったときだ。バーナンキ現FRB議長が経済学部長の時で大変お世話になった。彼やスベンソン教授、ウッドフォード教授の講演や講義でインフレ目標の理論などを勉強した。大胆にいえば、その時々でベストなことをやろうと思っても長い目で見ればベストにならないが、インフレ目標のような外部から見えやすい「ルール」があると長い目で見てもベストになるということだ。

 ただ、バーナンキは、ルールといってもあまりガチガチに考えることもなく、裁量性が制約されているもので、中央銀行のコミュニケーション手段だといっていた。また、今日の立場になることを予見していたのか、アメリカではFRBは物価と失業のふたつの目的が要請されているので、インフレ目標だとひとつだけしかカバーできず、現実問題としては難しいといっていた。プリンストン大学ではインフレ目標を否定する人はあまりおらず、2000年にはクルーグマン教授がMIT(マサチューセッツ工科大学)から移ってきて、ますますインフレ目標のみならず金融政策の議論が盛んになった。

 日本に帰ってきて、驚いたのはインフレ目標に対するアレルギーの強さだった。それで、バーナンキにもチェックしてもらって簡単なQ&Aを作った(2003.03.07 インフレ目標政策への批判に答える)。

 このQ&Aへの反応として、いろいろな方から、日銀が目標をたてるだけでインフレになるのか、人の気持ちまで管理できるか、といった素朴で本質的な意見もあった。一方、本職の経済学者からは、デフレから脱出するときに、はじめはちょっと無理して金融緩和せざるを得ないがそれが長い目でみて最適になるのか(いわゆる時間整合性の問題)といったマニアックな意見もあった。

 前者に対しては、人の心を変えるのか政策だし、財政政策もルールの下で協力するとか量的緩和もあり得るといった。後者に関しては、時間整合性をあまり硬直的に考えると、先の先を読んで長い目でみた最適解を探すにつれて金縛りにあったように進めなくなるし、長い目でみた最適解は現実にはなかなかわからないから、現状よりマシになるなら試みる価値ありだといった。

■日銀政策にも評価を

 当時は、現状よりマシと断定できにくかったが、現時点では、金融政策を評価するデータがかなりそろっている。2000年1月から09年12月までの10年間120か月間における、日本、アメリカ、EU、イギリスの物価指数の推移を見てみよう。ここで、日本はCPI(除く生鮮食品)、アメリカはCPI(除く食品エネルギー)、EUはHICP(除く食品エネルギー)、イギリスはCPIとする。日本では0〜2%、アメリカ・EU・イギリスでは1〜3%の月数の割合は、日本19.2%、アメリカ100%、EU90.8%、イギリス73.3%である。0%以下の月数割合については、日本78.3%、アメリカ・EU・イギリスはともに「なし」である。

 こうしたデータを見ていると、日銀にひと言いいたくなるのは仕方ないだろう。なにせ、欧米より1%も低い物価の安定であっても、日銀の打率は2割に満たないが、欧米の中央銀行は打率7割以上だ。逆に、マイナスの物価になると、日銀は打率8割、欧米はもちろんなしだ。こうなると、日銀はインフレ目標ならず「デフレ目標」を持っているのかとさえ思えてくる。ここまで、デフレを続けることはよほどの偶然があってもできることではない。

 2月18日、白川総裁が会見した時に、ウォール・ストリート・ジャーナルは「遅きに失した日本のインフレ目標議論」と報道し、日銀のかたくな姿勢を批判した。

 インフレ目標を経済学から考えると、どうしても不安だというなら、行政学から考えたらいい。日銀は広い意味での政府内の行政機関だ。今は、01年に制定された「行政機関が行う政策の評価に関する法律」により、政府の行政機関はみんな政策評価が義務付けられている。そしてかなりの行政機関で数値目標が定められている。そして、Plan(企画立案)、Do(実施)、Check(評価)、Action(企画立案への反映)という政策のマネジメント・サイクルが確立している。

 日銀は、法律上政策評価の対象ではないが、同じように政策の評価を行うと考えればいい。日銀の主たる仕事は、物価の安定だから、これについて数値目標を掲げるのだ。物価の安定は、他の行政機関に比べれば目標の数値化ははるかに容易だ。政府の行政機関が行っていることを日銀だけが例外扱いされることがおかしい。

 バーナンキが言っていたように中央銀行のコミュニケーション手段と考えれば、ここまで日銀が意固地に拒否する方がおかしいだろう。あまり否定すると、どんなに経済理論で反論しても、目標達成ができないときの責任をとるのがいやで、保身のためだと多くの人は思ってしまうのは、日銀にとって不幸ではないか。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。


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